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コーヒーとカフェイン②

前回に引き続きコーヒーとカフェインの話です。 コーヒーとカフェインが癌や心血管疾患のリスクを高める可能性があるという懸念は長い間存在していましたが、最近では健康上の利点に関する報告も出てきています。コーヒーにはカフェイン以外にも、クロロゲン酸、ポリフェノール、アルカロイドトリゴネリン、焙煎中に生成されるメラノイジン、マグネシウム、カリウム、ビタミンB3(ナイアシン)をはじめとする何百もの植物化学物質が含まれています。これらのコーヒー化合物は酸化ストレスを軽減したり、腸内細菌叢を改善したりといった効果が報告されています。したがってコーヒーの健康への影響を一概にカフェインによるものと解釈することはできません。 カフェインの代謝 カフェインの吸収は摂取後45分以内にほぼ完了し、血中濃度は15分から2時間でピークに達します。カフェインは体全体に広がり、脳内に到達します。カフェインは肝臓で代謝され、最終的には尿として排泄されます。健康な成人のカフェインの半減期(血中濃度が半分に減少するまでに要する時間)は通常2.5〜4.5時間ですが、人によって大きく異なります。新生児はカフェインを代謝する能力が限られているため半減期は約80時間と長くなりますが、生後5〜6ヶ月経過すると体重あたりの代謝能力は年齢によってあまり変化しなくなります。喫煙はカフェインの代謝を大幅に促進するため半減期は最大約50%短縮します。一方、経口避妊薬の使用は半減期を2倍に延長させます。また妊娠後期には代謝が大幅に低下することがわかっており、妊婦ではカフェインの半減期は最大15時間になる可能性があります。 カフェインと睡眠 脳内にアデノシンという物質が蓄積すると覚醒が抑制され眠気が増します。カフェインはこのアデノシンをブロックし、その効果を阻害します。中等量(40〜300mg)では、カフェインはアデノシンの効果に拮抗し、疲労を軽減し覚醒を高めます。そのため少ない刺激の中での長時間作業において注意力維持に効果を発揮します。この効果は睡眠不足状態で最も顕著となりますが、慢性的な睡眠不足の場合にはこの効果は認められません。 カフェインと尿 カフェインの摂取量が多いと尿量が増加する可能性がありますが、中等量(1日400mg以下)を長期間摂取しても脱水になるリスクは低いとされています。 カフェインの離脱症状 習慣的なカフ

コーヒーとカフェイン①

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みなさん、10月1日が何の日かご存知ですか? 10月1日は「コーヒーの日」です。1983年に全日本コーヒー協会が定めています。コーヒー豆の収穫が終わり、新たなコーヒー年度の始まる時期だからだそうです。 当院の開院が10月1日だったのは全くの偶然ですが、今回はコーヒーとカフェインをテーマに取り上げます。 全日本コーヒー協会によると、日本人は一週間に平均約10杯のコーヒーを摂取しており、その内訳はインスタントコーヒーが約4杯、レギュラーコーヒーが約3杯、リキッドコーヒーと缶コーヒーが1.5杯ずつとなっています。 私と同年代の40〜59歳では平均14杯なので、大体一日2杯のコーヒーを飲んでいることになります。 カフェインの摂取量で見ると、日本人の一日の平均カフェイン摂取量は約250mgで、その半分をコーヒーから、残り半分を「お茶」から摂取しています。食品安全委員会が示している悪影響のないカフェインの最大摂取量は以下の通りです。 左の表は飲み物一杯分に含まれるカフェインの量です。健康な成人の最大摂取量が1日400mgまでとするとコーヒーなら4〜6杯といったところでしょうか。 みなさんは一日でおよそどれくらいカフェインを摂取していますか? 次のコーヒーとカフェイン②では、あるレビューをもとに健康、疾患との関連についてお話しします。

コロナ禍で迎える2020-2021インフルエンザシーズン

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  いまだ新型コロナウイルス感染の拡大を認め、今冬どういった状況になるのか 予測が難しいところです。 南半球ではインフルエンザの発生が少なかったという報告がある一方で、東南アジアでは A型(H3N2)の発生が最近増えているという報告もあります。また、南半球でのインフルエンザ発生の少なさがウイルスの干渉(一方のウイルスが他方のウイルスの増殖を抑える)によるものだとする確固たる根拠はありません。 インフルエンザウイルスが流行しないことを願うばかりですが、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの同時流行に対応できる体制は整備しておかなければなりません。 CDCをはじめ日本感染症学会からも今冬のインフルエンザとCOVID-19に備えて提言が出されています。基本的には、同時流行時には新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスを症状のみで判断することは困難なので、それぞれの流行レベルに応じて検査の適応を検討することになります。 治療については、新型コロナウイルス感染症を外来で抗ウイルス薬などで治療することは想定されていないので、今冬の発熱患者の治療の主体はインフルエンザとなります。インフルエンザ迅速検査が陽性となった場合や、合併症のリスクの高い小児や高齢者では迅速検査なしでも症状や経過からインフルエンザと診断し、抗インフルエンザ薬を投与することが推奨されています。抗インフルエンザ薬は発症後2日以内の早期に投与することで効果が得られます。 2020-2021インフルエンザシーズンの流行状況や各種検査の不確実性を考えると、確立されたインフルエンザの予防と管理(インフルエンザワクチンと抗インフルエンザ薬)と基本的感染対策(手洗い、マスク着用、密を避ける)を行っていくことが備えの第一歩となります。 なお、実際の診療はあくまで「地域の流行状況」に加え「各施設の検査体制」及び「医師の判断」に基づいて行われますので、必ず上記通りの検査や治療を行うといったものではないことをご理解ください。 参考文献)⼀般社団法⼈⽇本感染症学会提⾔ 今冬のインフルエンザと COVID-19 に備えて JAMA.  Published online November 2, 2020. doi:10.1001/jama.2020.21849   https://www.cdc.gov/flu/professio

新型コロナウイルス感染症(検査編)

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今回は新型コロナウイルス感染症の検査についてです。 新型コロナウイルス感染症の診断では、「 核酸増幅検査(以下PCR検査) 」か「 抗原検査 」のどちらかを行います。PCR検査ではウイルスの遺伝子の有無を、抗原検査ではウイルスのタンパク質の有無を調べます。抗原検査の方が早く結果がわかりますが、PCR検査ほどの正確な結果は得られません。抗原検査では結果が「偽陰性」になる可能性が高くなります。偽陰性というのは、本当は感染しているのに検査結果が陰性になることを言います。 また「 抗体検査 」というのがありますが、これは 過去 に新型コロナウイルスに感染したかどうかがわかる検査です。この検査だけをもとに診断したり、治療法を決定したりすることはありません。これを利用して特定の地域で無症状の感染者がどのくらいいたのかを知ることができます。ただ、感染後どのくらいの期間、抗体が検出されるのかはわかっていません。 PCR検査にしろ抗原検査にしろ完璧な検査方法ではありません。新型コロナウイルス感染症が疑われる場合、たとえPCR検査が陰性であっても繰り返し検査することが推奨されています。また体操の内村航平選手がPCR検査陽性と報道されましたが、その後偽陽性(本当は感染していないのに検査結果が陽性となること)であったことが判明したのはみなさんご承知の通りでしょう。抗原検査も同様で、迅速抗原診断キットが陽性であってもPCR検査で陰性であることが判明したという報告もあります。 以下の表は各種検査の特徴をまとめたものです。 新型コロナウイルス感染症の病原体検査の指針 第1版 今冬インフルエンザ流行期では、不確実性をはらんだ各種検査の長所と短所を十分に理解した上で診療にあたることが医療者には求められます。 そこで次回はインフルエンザと新型コロナウイルスの両方が流行した際の診療の流れについてまとめて見たいと思います。

新型コロナウイルス感染症まとめ(症状編)

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今回は新型コロナウイルス感染症についてまとめてみました。 まずは症状についてです。 新型コロナウイルス感染症の症状は無症状から重篤なものまであります。平均の潜伏期間(感染してから症状が出るまでの期間)は平均4〜5日で、感染して11.5日以内に97.5%の人が発症します。 症状には、発熱、せき、のどの痛み、だるさ、筋肉痛などがあります。食欲低下やはきけ、下痢などの消化器症状を呈する場合もあります。においがしない、味がしないという症状は患者の68%で報告されており、男性より女性に多いと言われています。入院患者では、発症後平均5〜8日で呼吸苦が出現し、病状の悪化を示唆します。 重症化するかどうかは年齢と健康状態によると言われており、高齢の方ほど重症化する危険性は高くなります。また心臓病や腎臓病、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患、肥満(BMI>30;体重kgを身長mで2回割った値)などの持病のある方も重症化する恐れがあります。 重症度の評価を下図にまとめました。中国のデータでは軽症から中等症の方が81%、重症の方が14%、最重症の方が5%と報告されています。 軽症から中等症の方でも発症して約1週間後に症状がひどくなる可能性があります。特に上にあげた重症化の危険性が高い方では、追加検査の敷居を低くして注意深く症状を観察することが重要とされています。    N Engl J Med 2020;383:1757-1766 Figure.1を一部改変 以上いかがでしたか?現時点では、普通のかぜと新型コロナウイルス感染症を症状だけで判別することは難しく、接触歴や渡航歴、周囲の流行状況などを参考に総合的に判断していくしかなさそうです。 次回は新型コロナウイルス感染症の検査についてまとめたものを掲載予定です。 参考文献)N Engl J Med2020;383:1757-1766, UpToDate COVID-19 Patient education

おとなのかぜの治療

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今回はおとなのかぜの治療についてまとめたレビューを紹介します。 有効な治療法として挙げられているのは以下の通りです。 ① 抗ヒスタミン薬と充血除去薬を含む市販薬 せきを減らし、鼻からの呼吸を楽にさせる場合があります。総合感冒薬にはdl-メチルエフェドリン塩酸塩やクロラムフェニコルといった成分が含まれていることがありますが、これらがいわゆる充血除去薬と抗ヒスタミン薬です。ただし子どもでの有効性ははっきりしておらず、むしろ眠気が強くでたという報告もあります。また総合感冒薬の成分によっては尿が出にくくなるなどの副作用が見られる場合がありますので、特にご高齢の方は注意が必要です。 ② イブプロフェン これも総合感冒薬に含まれていることが多い解熱鎮痛薬です。熱や頭痛、体の痛みがある場合に有効です。 ③ アセトアミノフェン イブプロフェンと同じく解熱鎮痛薬の一種で、一時的に鼻水や鼻づまりを軽減させる可能性があります。 ④ 鼻うっ血除去薬スプレー (いわゆる点鼻薬) 鼻からの呼吸をしやすくするのに役立ちます。ただし鼻づまりを悪化させる可能性があるので3日以上は使用しないでください。 ⑤ 亜鉛トローチ かぜを早く治すのに役立ち、症状を軽減させる可能性があります。特にかぜの引き始め24時間以内に服用した場合、かぜの期間を1日短縮させるとの報告もあります。ただし適切な量や期間は明確になっておらず、大量の亜鉛は有毒で、銅の欠乏や貧血、神経系の異常を引き起こす可能性あります。また亜鉛にははきけなど胃腸症状の副作用もあります。 ⑥ ビタミン C  毎日摂取しても病気になるのを防ぐことはできませんが、かぜを早く治すのに役立つ可能性があります。すでにかぜの症状が出てから服用し始めても効果はありません。 A m Fam Physician.  2019 Sep 1;100(5):online. 以上いかがでしたでしょうか。最近の解析では亜鉛の有効性は立証されておらず、かぜの特効薬と言える治療法はありません。亜鉛やビタミンを含むバランスの良い食事を心がけ、マスク着用、手洗いなど日頃から感染対策を怠らないことが何よりも大切ですね。

子どものかぜの治療

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  秋も深まり、クリニック近くのお城公園のもみじも色づきはじめました。寒くなり花粉などのアレルギーもあいまって鼻水、せきなどの症状に悩まされる方も多いのではないでしょうか。今回は子どものかぜの治療についてまとめてみました。 子どものかぜに有効な治療法としては、 アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛薬 発熱による苦痛を緩和してくれます。 はちみつ   いくつかのガイドラインで急なせきに対して推奨されています。ただし乳児ボツリヌス中毒(赤ちゃんに影響を与える可能性のある深刻な食中毒)のリスクがあるので、 1歳未満のお子さんには使用しないでください 。 以下のようにホットレモンと混ぜるとより効果的と言われています。 ①レモンの半分を沸騰したお湯のマグカップに絞る。 ②はちみつ小さじ1〜2杯を加える。 ③温かいうちに飲む(小さなお子さんには少し緩くなってから) これ以外にもゼリーやヨーグルトに混ぜる方法もあります。 生理食塩水の鼻スプレー 鼻水または鼻詰まりを軽減させる。 ペラルゴニウム・シドイデス せきと鼻詰まりを改善させるハー ブの一種で、 海外でUmcka cold careという商品名で市販されているようです。 メントール塗り薬 せきを和らげ、鼻詰まりをよくして呼吸をしやすくします。ただし独特の臭いを嫌がる方もいます。我が家では、メントールの塗り薬を枕元において夜中せきがひどい時にはいつでも塗れるようにしています。親としては何かしてあげた感があり、それが効いたのかどうかわかりませんが子供が朝まで眠れる時もあります。ただしこの臭いが大の苦手な娘が、他の子に塗っても臭いと言って嫌がるので困ります😅 一方で、有効でないとされている治療法は、 抗菌薬 かぜの原因はほとんどがウイルスなので、抗菌薬は無効です。 コデイン   せき中枢に作用してせきを抑える薬ですが、12歳未満には使用できません。 エキナセア (ハーブの一種) 免疫力を高める効果については一定の結論を得ていません。 市販の風邪薬 ステロイドの鼻スプレー ビタミンD 以上いかがでしたでしょうか。正確な診断がまずは大事ですので、せきや鼻水、ねつがある場合にはかかりつけ医に相談していただくことをおすすめします。 次回はおとなのかぜの治療についてご紹介します。 参考文献) Am Fam Physician

ブログをはじめました!

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おかげさまで開院1ヶ月を迎えました。 このブログでは、クリニックからのお知らせや日々の出来事、医療に関する情報を発信してまいります。 開院にあたりたくさんのお祝いをいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。 地域にとって、みなさまにとって価値のあるクリニックを目指し、スタッフ一丸となって精進してまいります。 頂戴したもののうちのほんの一部ですが、掲載させていただきます。 2020年11月3日 院長 山本 政和